増資に伴うEPS希薄化をなぜ、どう考慮すべきなのか【質問箱】

ご質問:増資に伴う希薄化の影響は何か。なぜ希薄化を避けるべきなのか。

新株発行による影響を教えてください。

希薄化によってEPSが下がるが、成長ストーリーを説明できればネガティブにならないのでしょうか。

また、企業はどうしてEPSの希薄化を最小限にするのでしょうか。

"Peing" - 当サイトにて要約 [1] … Continue reading

2つのご質問があると理解しています。

(1)EPSの希薄化は成長ストーリーを説明できれば問題ないのか。

(2)企業はなぜEPSの希薄化を最小限にする必要があるのか。

結論1:原則としてはエクイティ・ストーリーがあれば問題ない

(1)のご質問に対するご回答としては、エクイティ・ストーリー(増資した資金を使った成長ストーリー)があれば問題はありません。

これについて理解するためには、EPSについて少し掘り下げる必要があります。

なお、EPSとは、Earnings per Share(1株当たりの純利益)のことです。

実績EPSよりも予想EPSが重要である

株価の分析に際しては、次のような数式で説明されることが多いです。

  • 株価 = EPS × PER

しかし、この数式は厳密には正しくありません。

株価というのは、基本的には将来の業績で決まるものです。過去の業績はあくまで、将来の業績を予想するための材料といえるでしょう。

したがって、この数式は次のように書き換えられます。

  • 株価 = 予想EPS × 予想PER
  • 予想PER = 株価が予想EPSの何倍になるか?の指標

増資によって予想EPSが希薄化するか?

前述の説明を踏まえると、増資によってEPSが希薄化するか?は重要な問いではありません。

増資によって予想EPSが希薄化するか?が重要だといえます。

つまり、予想EPSが希薄化するのかは、次の数式で考えることになります。

  • 増資公表前の予想EPS = 増資をしない場合の純利益 ÷ 増資前の株式数
  • 増資公表後の予想EPS = 増資をした場合の純利益 ÷ 増資後の株式数

増資をして得た資金を使って純利益を伸ばせるのであれば、増資公表後の予想EPSは、増資公表前の予想EPSよりも高くなる可能性があります。

例えば、企業買収を行う場合は、被買収企業の純利益分だけ親会社の純利益が増えるのが自然です。[2]理想的には両者間のシナジーによって1+1が2以上になってほしいところですが、なかなかそううまくいく買収案件ばかりではありません。

このように、確かなエクイティ・ストーリーがある場合は、増資によって予想純利益が増加するので、必ずしも予想EPSの希薄化が起こりません。

では、増資をしたら株価が伸びるのか

このように、机上の理論では、増資によって予想EPSが増加して株価も上がるはずです。

しかし、実際に増資後には株価が下がるケースのほうが多いです。

投資家はエクイティ・ストーリーどおりに成長するとは思っておらず、結局のところ、株式数の増加(いわゆる希薄化)によるマイナス影響のほうが大きいと考えていることが多いようです。

結論2:株式会社の目的が、株主にリターンをもたらすことだから

(2)に対する回答としては、ほぼ理論通りの回答になります。

株式会社は、株主のリターンを最大化することを目的として存在しています。

従業員を雇うのも、負債を活用するのも、事業を継続しようとするのも、あくまで株主へのリターンを最大化するための手段です。

したがって、増資を行う際には、予想EPSの希薄化によって株主に不利益がもたらされないかをよく検討する必要があります。

かつての日本企業におけるバンク・ガバナンス

かつての日本企業は銀行重視の経営をしてきたといわれており、株主はどちらかというと軽視されていました。

このような銀行重視の経営 の在り方をバンク・ガバナンスといいます。[3] … Continue reading かつての日本は、世界的に見てもやや極端なバンク・ガバナンスだったといわれています。

確かに、このようなバンク・ガバナンス下では「EPSが希薄化してもよいじゃないか」という発想が出てきてしまうでしょう。

現代の日本企業におけるエクイティ・ガバナンス

近年は日本でも、株主軽視の姿勢が見直されてきており、大企業を中心に日本でも株主を重視した経営が行われ始めております。

このような株主重視の経営の在り方をエクイティ・ガバナンスといいます。

米国などは伝統的にエクイティ・ガバナンスが行われており、むしろ行き過ぎたエクイティ・ガバナンスが問題視されることすらあります。

しかし、日本は伝統的に行き過ぎたバンク・ガバナンスであったため、適度にエクイティ・ガバナンスに転換していくことは、基本的には好ましいといわれています。

日本企業でも、日々の株価を意識し、株式価値の最大化を目指して経営されている企業も増えています。

脚注

脚注
1 原文:金融学習中の学生です。新株発行による発行体への影響をお聞きしたいです。希薄化によって、EPSが下がり、そして、株価が下がるなどがあるのでしょうか? ただ、しっかりとその増資が意味のある事、今後の成長につながるストーリーを説明できれば特段ネガティブにならないのでしょうか? また、企業がどうして株の希薄化を最小限にするのかをお聞きしたいです。300%ルールというものがありましたが、それ以外でしたら特に上場廃止にはならず、問題ないのかと思いました。
2 理想的には両者間のシナジーによって1+1が2以上になってほしいところですが、なかなかそううまくいく買収案件ばかりではありません。
3 正確に言えば、「企業が銀行重視で経営をし、銀行が企業を厳しく監視することで、企業が健全に経営されるようになる」という状態のことをバンク・ガバナンスといいます。