株式価値と時価総額が乖離する理由/理論と現実の違い【質問箱】
価値算定結果が市場価格と大きく乖離したときに、どう考えればよいかについてご質問いただきました。
ご質問:株式価値が時価総額を大幅に下回る理由
自分で算出した株式価値が時価総額を大幅に下回ってしまう現象(例えば時価総額が1兆なのに株式価値が3,000億円と算出されてしまう)に陥っています。
計算式を見直しても間違いは見当たらないです。これは一般的に起こりうる現象なのでしょうか。
また、仮に下回った金額で買収提案をした場合、被買収側の株主は納得しないと思うのですが、このような場合はやはりそもそもの提案自体が論外ということでしょうか。
"Peing" - 要約
結論1:基本的には価値評価が間違っている可能性が高い
企業金融の世界では、机上の理論はあまり信用されていません。
「理論上ではAになるはずだが、実際はBになっている」という場面においては、基本的にはBが正しいとみなされます。
ご質問いただいたケースの場合、基本的には1兆円近い価値があるはずであり、3,000億円という算定結果は間違っている可能性が高いと判断されます。
業績予想の見直し
DCF法の場合、UFCF予想、WACC、PGRの3要素でおおよその価値が決定されます。
市場の価格と大幅に異なる算定結果になった場合は、次のような可能性が考えられます。
- UFCF予想が弱気すぎる
- WACCが高すぎる
- PGRの予想が低すぎる
例えば、市場が3-4%程度のWACCを想定しているのに、評価者が10%程度のWACCを想定している場合、3倍程度の評価のズレが出る可能性があります。
市場の価格というのは多くの市場関係者の総意で決まっているため、評価者個人の予想よりもはるかに正確性が高いはずです。
現実問題として、株価が3分の1になると思うか
もちろん、市場が大きな見落としており、過大評価や過小評価が発生している可能性はゼロではありません。
こういうときは、机上論ではなく現実のこととして考えてみるとよいと思います。
ご質問いただいたケースで発行済株式数が1億株だと仮定すると、株価は10,000円で、1株当たりの株式価値は3,000円になります。
もし、自分の価値評価が正しいと考える場合、この株式の株価が3,000円に下落するまで空売りし続けるのが正しいことになります。
そうしたいと思えないのであれば、市場のほうが正しく、評価者側が何か重大な見落としをしている可能性が高いということになります。
結論2:市場価格よりも安い金額での買収は原則できない
こちらの論点についても、机上論ではなく現実のこととして考えてみるのが良いでしょう。
- あなたは、A社の株式を1株当たり4,800円で1,000株購入した(1,000株を480万円で購入した)
- A社の株価は5,000円に上がり、あなたの資産は500万円になっている
- B社が、あなたが持っているA社の株式500万円分を、150万円で売ってくれと言ってきた
このとき、あなたがどう思うかをよく考えてみてください。
あなたが売り手だったとして、「あなたが持っている500万円分の株式は、本来150万円の価値しかないので、150万円で私に売るべきです」と言われたどう感じるでしょうか。
できるできない以前に、非常に失礼なことであることがわかると思います。
机上論として考えるから、1兆円の企業を3,000億円で買おうとしたらどうなるか?という疑問が出てくるのです。
現実におきていることとして考えれば、ありえないことであるのはすぐ分かるはずですし、買える買えない以前の問題であることも簡単に理解できると思います。
企業金融の学習時は、机上の空論にならないように注意する
企業金融の学習をするときは、机上の空論にならないように注意しましょう。
教科書を見て考えるよりも、まずは市場を見て、事例を見て、現実でどうなっているのかを確認してみましょう。
上場企業の業績や株価、コーポレート・アクションなどは、かなりの情報が法律や規制に基づいて一般公開されています。
企業が開示している情報は、教科書の何十倍も学習の役に立つはずです。
そのことに注意して学習を進めると、余計なところでつまずきにくくなり、よりスムーズに現実的な知識を身につけられるようになると思います。