財務モデリングのスキルを習得するための所要時間

ご質問をいただいたので回答します。

財務モデリングの習得にかかる時間は数百時間程度

結論としては、予備知識の水準にもよりますが、200時間~500時間程度ではないかと思います。

少し難しめの資格を1つ取得するくらいの難易度というイメージを持っていただくと、イメージしやすいかもしれません。

想定している財務モデリングスキルの水準について

ここでいう財務モデリングのスキルとは、参考書などを見ずに、白紙からバリュエーション・モデルを作成できるようになることを指します。

財務モデルを活用して上司にプレゼンするだとか、仕事で即戦力になるようなレベルを想定しているわけではありません。

財務モデリングの学習には何に時間がかかるのか

モデリングスキルの習得フローは以下のようなイメージです。

  • エクセルの予備知識の習得
  • 会計の予備知識の取得
  • 企業金融の予備知識の習得
  • 財務モデリングの学習
  • 財務モデリングのトレーニング

ただし、これはあくまで効率よく最短ルートで学習した場合ですので、独学で手探りをしながら学習する場合は、数倍程度の時間がかかると考えたほうが良いと思います。

エクセルの予備知識の習得(前提)

まず、基本的なエクセルの使い方については、予備知識として持っておく必要があります。

たとえば、エクセルのSUM関数を使ったことがない人が財務モデリングの学習を始める場合、金融やモデリングの勉強以前に、エクセルの勉強をしなければなりません。

ここでは、基本的な四則演算や簡単な関数の使用、行・列・シートの追加や削除、簡単なフォーマットの調整などは問題なく行えることを前提にします。

会計の予備知識の取得(10時間~20時間)

財務モデリングは、決算書に基づいて行う分析・シミュレーションですから、決算書が読めないといけません。

基本的な会計知識を身につけて、決算書の各項目の意味が分かる程度になっておく必要があります。

簿記と比較した財務モデリングの位置づけ

決算書の読み方に関する新書を1冊を読んだうえで、掛取引や減価償却といった基本的な会計の概念(特にキャッシュフローと利益の違い)について学習する必要があります。

初学者が学習する場合、10時間~20時間程度はかかるのではないかと思います。

企業金融の予備知識の習得(50時間~100時間程度)

バリュエーション・モデルを作れるようになるためには、リスク・リターンの考え方やCAPM、DCF法といった企業金融に関する知識が必要になります。

実際に使うわけではないものの、効率的市場仮説やMM理論といった現代金融理論の基本的な知識はもっておくことが好ましいといえます。

これらの学習に50時間~100時間程度かかるのではないかと思います。

イメージとしては、大学の授業4単位分くらいです。

財務モデリングの学習(30時間~50時間)

当サイトで扱っているような財務モデリングの知識を学習する時間も必要です。

使う教材などにもよりますが、座学に必要な時間は多くないと考えております。

一通りの座学を終えて、「こんなふうにモデルを作成するのか」というイメージができるようになるまでの時間ということです。

なお、会計や金融の予備知識の水準によっては、財務モデリングの学習をしている中で出てきた、わからない用語や概念を調べる必要があります。予備知識によって所要時間が異なると思います。

財務モデリングのトレーニング(100時間~300時間)

財務モデリングは、学問というよりはスポーツに近いものですので、頭で理解してから実際にできるようになるまでに、相応のトレーニング量が必要になります。

座学よりも練習が重要

具体的には、5-6社分程度の財務モデルを1から1人で作成する練習を積めば、何とか冒頭に書いたようなレベルになると思います。

多くの場合で、1つ目のモデルを完成させるまでには非常に多くの時間がかかります。何度も躓いては教材を読み直して、毎日5-6時間やっても1週間以上かかるイメージです。長ければ100時間近くかかるかもしれません。

2-3回目は、大きく時間が短縮されて数日程度で作れるようになります。

4-5社目になるころには、頑張れば1日以内に作れるようになるでしょう。

3社目くらいからは新しい予想方法や、今までは省略してきた計算などを試してみるようにして、モデリングの引き出しを増やすのが好ましいです。

しかし、実際には、ごく初歩的なモデルを作れるようになるまでに5社分程度のトレーニングが必要だと思います。

引き出しを増やしたり、少し工夫した計算をできるようになるのは、その後どれだけトレーニング量を増やしていけるかによると思います。

財務モデリングの学習に簿記は必要か

よく聞かれるご質問なので捕捉します。

簿記はあくまで決算書を作成するためのルールであるため、財務モデリングとは異なります。

上記のフローに書いたとおり、会計の勉強よりも金融の勉強のほうが重く、金融の勉強よりもモデリングのトレーニングのほうが重いです。

このため、最も軽く済ませるべき会計の勉強のフェーズで数百時間の時間を使ってしまうと、財務モデリングのスキルを習得するまでの所要時間が1,000時間を超えてしまう可能性があります。

同じ1,000時間を財務モデリングのスキル獲得のために使うのであれば、とにかくトレーニング量を増やすほうが好ましいです。

簿記2級の勉強を数百時間行うくらいなら、その数百時間で財務モデルを5個でも10個でも作ったほうが、財務モデリングのスキルは向上すると思われます。

トレーニングを通じて得られるもの

いろんな企業の財務モデルを作成すればするほど、以前モデルを組んでみた業界では出てこなかった項目などに出会う可能性が高まり、そのたびに会計や金融の知識も増えていくと思います。

実際の株価の推移を、業績の推移や企業価値評価の結果と比べてみることによって、徐々に数値の肌感覚も養われていきます。

たとえば、モデリングのトレーニングを繰り返しているうちに、以下のような疑問を持つことができるようになります。

これくらいの業績ならば、これくらいの企業価値になるはずではないか。
算定された価値が小さすぎるから、どこか間違っているような気がする。

"トレーニングを通して得られる肌感覚"

こういった直観が養われることで、より正確で優れたモデルを作れるようになっていきます。

そして、このような感覚は財務モデリングの経験値によってのみ養われるものだと思います。