ROAの計算方法はどれが正しいのか|経常利益・純利益・総資産・期中平均など

ご質問

財務モデリング本格入門Part1 財務分析 のセクションについて、ご質問をいただきました。

ROAの計算について質問です。Returnとして親会社株主に帰属する当期純利益を使用する場合、Assetは総資産から非支配株主持分を引く、もしくはRに当期純利益を用いてAは総資産をそのまま使用するのかなと考えたのですが、回答はRに親会社株主に帰属する当期純利益、Aに総資産となっており、Apple to Appleじゃない気がして違和感があるのですが、私の考え方はおかしいのでしょうか。

"Peing" - 一部抜粋, 一部修正

結論:分子と分母で整合させるのは正しい考え方の1つです

分子と分母で整合性をとるというのは非常に重要な考え方の1つで、ご指摘いただいた違和感は非常に真っ当なものだといえます。

一方で、ROAの計算方法は非常に様々な方法があり、正しい計算方法を1つに絞るのは困難です。

ROAの分母に使うべきは総資産か総資本か

ROAは、Return on Asset であり、基本的には総資産に対する利益率です。一方で、総資本利益率と訳されることも多いです。

総資産であると考えるのであれば、非支配株主持分の扱いはいったん無視してもよいでしょう。非支配株主持分はあくまで資本の項目だからです。総資本だと考えるのであれば、非支配株主持分をどう扱うのかは議論の対象となります。

この論点は、どちらが正しいと決まっているわけではなく、分析者の価値観や考え方によるところです。

ROAの分母は期首か、期末か、期中平均か

分母のタイミングにも議論があります。

期首時点の資産に対してどれだけの利益を出せたかを考えるのも論理的には正しいでしょう。

分子の利益が1年間かけて生み出されたものだから、分母の資産も1年の平均にすべきだという考え方も間違っていません。この場合、期中平均の計算は、(期首+期末)÷2にするのか、月末や四半期末の平均をとるのか、といった議論もあります。

期末の数値を使うのは、確かに理屈としてはあまり正当ではありません。しかし、財務モデル上では、1年の利益と期末の資産が同じ列に記載されていますから、利益÷期末資産という計算が最も簡単です。

このように、どの計算手法にもそれなりの正当性があります。

ROAの分子は経常利益か、EBIATか、純利益か、親会社帰属の純利益か

ROAの分子も諸説あります。

ROAを総資産経常利益率などと訳すことがあり、教科書などでは経常利益が使われていることが多いように思います。税引後経常利益と書かれることもあります。

一方で、財務分析においては、ROE=ROA×財務レバレッジ[1]総資本÷自己資本で求められる数値。自己資本比率の逆数。という計算をすることがあります。この場合は、ROAの分母は総資産であり、ROAの分子はROEを同じ(つまり、親会株主に帰属する純利益)であるべきです。

また、ROAを株主と債権者の資本を使ってどれだけの利益を生み出したかの指標だと考えるのであれば、分子は株主と債権者に帰属する利益にすべきですので、支払利息を引く前の利益にすべきです。この場合、EBIAT[2]Earnings Before Interest After Tax, 利払前税引後利益。計算方法には揺れがあるが、(営業利益 + 利息以外の営業外収益 - … Continue readingにすることも考えられます。

同様に、分母を総資産と総資本のどちらだととらえるかによって、非支配株主に帰属する純利益の考え方も異なります。総資産だと考えるのであれば、非支配株主に帰属する利益の扱いはどちらでもよいことになりますが、総資本だと考えるのであれば、分母に非支配株主持分が含まれている以上、分子も連結の純利益にすべきでしょう。

ROAの計算方法で一般的な方法はどれか

分母が2×3通り、分子が5通りだと考えると、ざっくり30通りの計算方法があります。

ROAの計算方法として、30-40種類のパターンが考えられ、そのいずれもが一定の正当性を持っているというのは事実です。

しかし、学習段階の方に対して「自分の価値観に応じて、30-40種類のうちどれを使ってもいいと思うよ」というのは無責任な回答だともいえるでしょう。

そこで、2つの方法に絞って回答します。

理論的に最も正しいのは、EBITA ÷ 期中平均総資産 ではないか

ROAは、Assetに対するReturnですので、分母に使う値は総資産が最も正統派なのではないかと思います。

また、分子に1年間の利益を使っているため、分母も1年の平均を使うのが正統派なのではないかと思います。

分子に使う項目としては、株主と債権者に帰属するリターンとしてのEBIATが良いように思います。つまり、EBITAT ÷ 期中平均総資産 が正統派だといえるでしょう。

財務モデリングでは、親会社株主に帰属する純利益 ÷ 期末総資産 がよさそう

さて、実際のモデル上で計算するときのことを考えてみましょう。

ROAだけを計算することはまずなく、ROAはROEやROICとセットで計算されることがほとんどですので、ROE = ROA × 財務レバレッジと分解できるようにするのが良いでしょう。また、モデルの構造上、その年の利益と期末の資産が同じ列に記載されています。

これを踏まえると、分子はROEと同じにして、分母には総資産を使うのが合理的だということになります。つまり、親会社株主に帰属する純利益 ÷ 期末総資産 になります。

あくまで相対評価で使うということ

ROAやROEに限らず、財務指標というのは相対評価で使用するものです。

比較元と比較先の計算方法が一致していれば、ある程度は自由に計算方法を選んでよいことになります。

学習段階では、どれが正しいのかを誰かに教えてもらおうという発想になるのが自然ですが、財務モデリングに慣れてきて、企業金融の学習が進んでくると、「本にはこう書いてあるが、私はこう思う」という持論というものを持てるようになると思います。

学習が進めば進むほど、こういった計算方法の選択については悩まなくなるので、学習段階では、いろんな考え方を見聞きしながら学習を進めていただくとよいと思います。

脚注

脚注
1 総資本÷自己資本で求められる数値。自己資本比率の逆数。
2 Earnings Before Interest After Tax, 利払前税引後利益。計算方法には揺れがあるが、(営業利益 + 利息以外の営業外収益 - 利息以外の営業外費用)×(1-実効税率)で求めるのが一般的だと思われる。NOPATに似た指標。