棚卸資産や買掛金の回転日数は売上原価対比で計算すべきか【質問箱】

ご質問:売掛金回転日数は対売上高なのに、買掛金回転 日数はなぜ対売上原価なのか

初歩的な質問ですみません。財務モデリングのウェブ講座を読んでいるのですが、運転資本の予想で、売掛金は売上高に対する回転日数を使うのに対して、棚卸資産や買掛金は売上原価になるのはなぜでしょう

"Peing" - 全文

結論:多くの投資家がそのように計算しているから

売掛金回転日数や買掛金回転日数のあるべき論

売掛金は、まだ受け取っていない代金のことを指します。

このため、厳密に考えるのであれば、販売額のうち掛取引を行った部分に連動します。

同様に、買掛金はまだ支払っていない代金のことを指します。

このため、厳密に考えるのであれば、仕入のうち掛取引を行った部分に連動します。

そもそも販売額と売上は異なりますし、売上原価と仕入原価も異なります。売上原価には減価償却費など外部への支払いが発生しない費用も含まれています。

このように考えていくと、売掛金を売上高に、買掛金を売上原価に連動させて計算することは、理論的にはツッコミどころの多い計算方法となっています。

理論に厳密な計算ができるのか

ここからが、金融理論と金融実務で大きく異なるところです。

確かに理論的には、掛取引を行った販売額や掛取引を行った仕入に連動させるべきです。

しかし、有価証券報告書などにはこれらの項目は記載されていません。投資家はインサイダー情報にアクセスができませんから、開示されている情報から計算を行う必要があります。

開示されている情報の中で、売掛金を連動させるに最もふさわしい項目が売上高であるため、売掛金回転率には売上高を使うわけです。

民主主義的な金融実務

企業価値評価は、そもそも人間にとっての価値を体系化した理論ですから、資本市場関係者の多くがどのように考えているのかは非常に重要です。

どれほど机上では素晴らしい理論であっても、資本市場関係者が誰も参考にしていなければ、まさに絵に描いた餅なのです。

一方で、多少欠点のある考え方であっても、資本市場関係者の多くが妥当だと判断している理論であれば、十分に実用的な理論だといえます。

このように、金融実務における価値評価は、ある程度民主主義的であるといえます。

先述の売掛金回転率や買掛金回転率は、ほとんどの金融専門職の人が、それぞれ売上高と売上原価に連動させて考えています。

しがって、ここでは素直に市場関係者のやり方を踏襲すれば十分でしょう。

価値評価のどこで差がつくのか

このように価値評価理論は民主主義的だといえます。それではどこで差がつくのかのでしょうか。

もちろん、多くの重要なポイントがあるのですが、ここでは主要なポイントをいくつかピックアップして説明します。

ふつうにミスをする

当たり前のことですが、学習段階の方が軽視しがちなポイントとして、そもそもミスをする人が多いというポイントがあります。

財務モデルを大きなミスなく作れる人は、そもそも多くありません。それなりの経験を積んでいないと、本人が思っている以上に大量のミスをしていることが多いです。

十分に財務モデリングの業務を経験しているプロフェッショナルでも、ミスをゼロにすることは難しいです。

重大なミスをゼロにしつつ、小さなミスをできるだけ減らすといった考え方で業務に臨んでいる人がほとんどだと思います。

モデルの構造で差がつく

売掛金残高などは、回転日数を利用したセオリーどおりの予想をする人が多いと思います。

一方で、売上高のブレイクダウンの仕方や、設備投資費の予想の仕方などは、人によって差が出ます。

ある人は展開国ごとに売上高を予想し、ある人はセグメントごとに売上高を予想します。こういった数式の構造で差がつきます。

基本的には、より事業を理解している人のほうが、より確からしい予想方法を選択できると思います。

予想値で差がつく

最後に予想値そのもので差がつきます。

ミスを最小限に抑えて、妥当な構造でモデルを作るところまでは、一定水準の経験を積めば多くの人が実現できるでしょう。

最後に差がつくのは、予想値の部分です。

従来と同じペースで事業が成長するのか、従来以上のペースに成長が加速するか、海外展開は順調に進むのかなど、そういった1つ1つの予想の積み重ねで差がついていきます。

この部分については理論はありません。事業への理解や今までに培ってきた知識や勘をフルに動員して、自分で納得できる業績予想を作ることになります。

もちろん、仕事上で財務モデルを作成する場合は、依頼者(顧客や上司など)のビューを適切に反映することが重要です。