余剰現金があるとき、WACC>株主資本コストになるのか【質問箱】
WACCと株主資本コストについてのご質問です。追記あり。
ご質問:WACC>株主資本コストになることがあるか
昨日の余剰現預金にかかるコストの議論を拝見しました。また、以前の投稿か何かでWACC算出式のD/EレシオのDをNet Debtで考えると仰っているのを目にしたかと思います。
両者を合わせると「余剰現預金がある」≒「Net Debt < 0」=「WACC > 株主資本コスト」になるかと思いますが、認識は間違っていないでしょうか。
"Peing" - 一部抜粋
結論:ネットデットの扱いによってそうなりうる
そのような考え方もあります。
グロスD/EレシオかネットD/Eレシオか
まず、WACCの計算にグロスD/Eを使う場合とネットD/Eを使う場合の両方があるというのは事実です。
会社や評価者個人の考え方によって、どちらを使うケースもあります。
個人的には、現金があるとはいえ借入金があるもの事実なので、グロスD/Eレシオを使ったほうが自然ではないか考えています。
- グロスD/Eレシオ = 総有利子負債 ÷ 時価総額
- WACC = 株主資本コスト ÷ (D/E + 1) + 有利子負債コスト × (1 - 1 ÷ (D/E + 1))
ネットキャッシュの場合の処理
ネットキャッシュの状態、すなわち総有利子負債よりも現金及び現金同等物が多い状態では、ネットD/Eはマイナスになります。
このとき、WACCの計算にネットD/Eレシオを使用するかどうかは考え方次第です。
- ネットキャッシュの場合は、有利子負債比率=0と考えて、WACC=株主資本コストとする
- ネットキャッシュの場合は、有利子負債比率<0と考えて、WACC>株主資本コストとする
どちらも理屈上は正しく、どちらの考え方も存在します。
ただし、前者(WACC=株主資本コスト)のほうが一般的だとは思います。
財務モデルにおいて後者(WACC>株主資本コスト)の計算方法を使う場合は、計算ミスではないことを示すために注記をするとよいかもしれません。
「ネットキャッシュであるためWACC>株主資本コストとなる」といった注記をしておけば、意図的にそのような計算方法をしていることが明確になります。
キャッシュリッチな企業への調整
ネットキャッシュの幅が大きく、評価対象の企業が大幅な余剰現金を保有している状態のことを、キャッシュリッチな状態といいます。
キャッシュリッチな企業のWACCに調整を行うことはあります。
- WACC = 株主資本コスト + キャッシュリッチ企業への調整