EBITDAにおける営業外収益・特別損益|持分法利益と株式報酬など
ときどき質問されるのでEBITDAについてまとめました。
結論としては、EBITDAは自由に調整してよい
書くまでもないと思いますが、EBITDAはEarnings Before Interest, Tax, Depreciation, and Amortizationの頭文字をとったもので、償却費前利益のことです。TaxをTaxesと複数形で書く人もいるようです。Google検索の完全一致検索によると、単数形のほうが結果は多くなります。確かに、なんとなく単数形のほうがよく見かける気はします。
EBITDAは、EBIT + 減価償却費 + のれん償却費 で定義されます。EBIT = 営業利益と考えてよいのなら、EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却費 で簡単です。しかし、世の中にはもう少し調整をしたいと考えている人が多いようです。
実務では調整することはあまりなく、シンプルに 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却費 で計算することが多いです。
M&Aの文脈だとManagement Adjusted EBITDAなる怪しい調整が加わることが多いですが、こちらは後で説明します。
EBITとEBITDAの教科書的な調整方法を考える
私の中では「営業利益 + 減価償却費 + のれん償却費でよい」という結論が出ているのですが、それでは味気ないので、少し考えてみます。
教科書的なEBITの定義 = Core, Controlled, Continuous
教科書的なEBITの定義としては、Core, Controlled, Continuous というものがあります。
- Core: 本業の
- Controlled: 支配下にある
- Continuous: 継続的な
利益こそがEBITであるということです。
Coreと言われているので、本業以外からくる収入は無視されます。しかし、本業じゃない事業というのが何かは議論の余地が残りますね。評価者の感覚が問われるところでしょう。
Controlledと言われているので、持分法による投資損益などは含まないということになりますね。
Continuousらしいので、日本基準でいう特別損益は含まないということになるでしょう。IFRSでいうところの非継続事業というのも除外されます。
疑問点1 EBITDAに含まれるコア事業とは何か
これもちゃんと考えると難しい点です。
売上高の比率が9:1である2つの事業を行っていたとして、10%を占める売上を無視できるのかという話になります。売上はともかく、費用をどう按分するのかは謎です。非公開情報まで使ったとしても、コア事業のEBITを出せるのかは疑問です。
どうせ算出できないという意味で、調整しなくていいようには思います。
疑問点2 持分法による投資損益は本当に含まないのか
損益計算書の持分法利益をEBITで考慮しないということは、貸借対照表の関係会社株式をCash-like Itemとして純有利子負債に加えるということになります。少額な場合はまだしも、持分法適用利益が営業利益に対してそこそこ以上の規模がある場合は、簿価評価するより利益やキャッシュフローで評価するほうが自然な気はします。
何を言っているかわからないという人はそれでも良いと思います。細かい論点です[1]本当は細かくないですが、説明するのと長くなるので別の機会に解説しましょう。。
簡単に言えば、定義的には持分法損益はEBITDAに含まないのだが、含めてもよいのではないかという話です。
疑問点3 継続的の定義が会計基準によって異なるのではないか
日本会計基準で考えると、特別利益や特別損失はContinuousでないと判断されているように見えます。一方で、IFRSでは日本会計基準では特別損益に含まれている項目の多くが、営業利益相当の利益に含まれています。
EBITやEBITDAを使うことのは、会計基準や法制度による影響を減らす意図がある[2] … Continue readingので、会計基準によってContinuousの定義が変わってしまうと調整する意味がないように思います。
じゃあどうするのかって言われても、会計の専門家ではないのでわかりません。会計に詳しい人でも、公開情報だけでは調整できないのではないかとは思います。
教科書的な調整まとめ
こう考えていくと、3Cの調整をしろと言われても、具体的には何の調整をすればいいのかよく分かりません。理屈を考えれば考えるほど、調整すべき項目がぼやけてきます。
営業利益からEBITに向けて何か調整をするとしても、持分法適用利益・利息・為替差損益を除く営業外損益を考慮するくらいでしょうか。
Management Adjusted EBITDA という謎理論について
米国企業などでは、EBITDAのほかにManagement Adjusted EBITDAという謎の指標が開示されていることがあります。簡単に言うと、「経営陣が勝手に調整を行ったEBITDA」のことです。広告宣伝費前利益のような怪しさがあり、資本市場からは批判されていることも多いです。
経営陣が勝手に調整を行っているので、Adjusted EBITDAに定義はありません。企業ごとに調整のされ方は異なりますし、何を調整したのかをよく見ないといけません。常識的に考えれば費用として考慮すべき項目を、勝手に足し戻したりしていることがあります。
当然、持分法適用利益などは足されていることが多いですし、株式報酬費用なども足し戻されがちです。理由をつけて無視できそうな費用は、基本的に足し戻されているので、通常のEBITDAと比べて結構水増しされています。
このように、EBITDAというのは勝手に調整されることも珍しくない指標です。
厳密に考えたいならキャッシュフローを使うべき
EBITDAというのは、さまざまな理屈によっていろいろな調整が施されることが多く、1つの定義がある指標ではありません。
そもそも、EBITDAは時間優先の場面で使う指標であって、厳密に分析をしたいならキャッシュフローを使うべきです。調整をしたからと言ってEBITDAはEBITDAであり、税金も設備投資費も考慮されていません。
EBITDAに限った話ではありませんが、財務指標は適した場面で使ってこそ意味があります。定義だけでなく、使い方もよく覚えておきましょう。